風船の結び玉3」別紙(超近代文学論集)



近代文学論
----若き詩人、かく詠えり----



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326





326
これは「ミツル」と読む。人名である。
彼はイラストライターとして絶大な人気を誇るが、
他にも仕事の幅は広い。

肩書きは"ポップアーティスト"となっている。
主な活動は、イラスト、詩、作詞、絵本・・・。


というわけで、
一時期バラエティー番組にも多く露出していて、
多くの雑誌に連載を持つ彼は、
とっても有名。
若い人たちに「あなたの知っている詩人は?」と尋ねたら、
10人中6人は「326?」と答えるだろう。
この人も、年代に関係なく愛される人物の一人である。

326がこれほどまでに知名度がある1つの理由に、
フォーク歌手「19(ジューク)」の作詞を手がけていたことがあげられるんじゃないかな。
「19」とは二人組の・・・、ま、そちらの情報はよしとしよう。
とにかく、歌うたっている人たちだ。詳しくはコチラを。

で、
その19の代表曲に、「あの紙ヒコーキくもり空わって」という歌がある。
そう、あのさわやかな曲だ。
当然、この歌の作詞は326である。
ではさっそく詩の全文をここに示そう。
私側の都合上、改行などのディティールに関しては、
正確には反映されていないので御了承をば。


あの紙ヒコーキくもり空わって

「元気ですか?」君は今も哀しい笑顔してるの?
『大丈夫さ?裏切られる事はもう慣れてるから・・・。』
『今では空が笑わないからボクは「笑い方」を忘れてしまったよ・・・。』
君はつぶやき、そして笑う・・・。「・・・さぁ、顔上げて?」

夢を描いたテストの裏 紙ヒコーキ作って明日になげるよ。
いつか・・・このくもり空わって虹を架けるはずだよ?みんなをつれてくよ?

ほらいっしょに君と見てた空をまだ覚えてる?
「メーヴェ」とつけた紙ヒコーキ2人でよく飛ばしたね?
その笑顔かえたいよ。何にも無いボクだけど・・・似顔絵描くよ?
ホント似てなくて おもわずボクら・・・ みんな笑った。

風がボクらを包んで・・・そっと背中を押して・・・空も笑って・・・
ボクらみんな笑顔になって それぞれの夢、持って・・・・・この風に乗ってくよ。

「両手広げて・・・」

夢を描いたテストの裏、紙ヒコーキ作って明日になげるよ。
いつか・・・このくもり空わって虹を架けるはずだよ。
・・・・・・・・みんなをつれてくよ。


非常に前向きな詩ですね。それでは要約してみましょう。

少年は夢に悩んでいる。かつて夢を語り合った友は、そんな彼に笑
顔を取り戻してもらいたい。そして夢を。二人に笑顔が生まれた時
、彼の体は軽くなった。もう大丈夫。

こんな感じでしょうか。
うーん、若いっていいですね、と思わせる内容ですな。
ちなみに"メーヴェ"というのはドイツ語で「かもめ」という意味です。

では、さっそくウンチクといきましょう。
まずここはいいですね。

"紙ヒコーキ"=「夢」

夢という形而上の概念に、形を与えることで、
それを扱い易くしているのです。
形があれば、動詞は豊富に存在しますからね。
もちろん、紙ひこうきのように、
強くもなく、かといって弱くもなく、
「少年」をイメージさせる対象のチョイスはベリーナイスですね。
ここで彼らが、実際にテストで紙ひこうきを折って、
公園に行ってとばしてあそんだ、
と考えるのはあまりよろしくありません。
ひこうきなんか作っちゃいないんです。
彼らがとばしてあそんだのは「夢」なんです。
と、私は読み取ります。
もちろん、詩の世界が現実に、明確に結びついている、と考えたらの話ですが。


さて、と。
もうひとつ、語りたい部分があるのですが、いいでしょうか。

『今では空が笑わないからボクは「笑い方」を忘れてしまったよ・・・。』

この1行、何だか不思議な感じのする表現です。
なぜだろう。

多分私が思うに、「空が笑う」という非生物主語の言葉を
当たり前のようにさらっと使っているからじゃないかなぁ。

じゃあ深く考えてみて、「空が笑う」とはどういうことだろう?

これは一般的にはこう使われる表現だ。

「心が浮かれ、楽しく、希望に満ちているとき、
空を見上げると、それはまるで笑っているように感じられる」

つまりなのだ。

"空が笑わない"から"ボクは「笑い方」を忘れ"たのではなく、
本来は"「笑い方」を忘れ"たから"空が笑わない"のだ。

それをこの主人公は逆に感じた。
ということは、彼にとっての"空"というのは
絶えず笑い続けている存在だったことを意味する。
とどのつまり、彼はかつて常に、意識することも気付くことも無く
心浮かれ、希望に満ちた精神状態であったわけだ。
それは当然、"紙ヒコーキ作って明日になげ"続けていた時代の話である。

だが、今はどうだろう。
あの時代、見上げればいつだって笑っていた空が
すっかり笑わなくなってしまった。

なぜだ・・・。
なぜ空はこんなにも曇っているのだ・・・?

すべて、本人の精神状態に起因することに気付かぬまま、
少年はバクゼンと悩むのである。
笑うことも忘れて・・・。

その混沌を打破させたのは、友人の描いた似顔絵。
彼は笑う。
すると、目に見えるすべてが笑い出した・・・。



えーと、何が言いたいのか分からなくなってしまいましたが、
こういう面白い表現、僕は好きです、ということですわ。


最後の部分、笑顔がすべての解決を導くところ、
ぼくはここに、登場人物の「若さ」が描かれていると思う。
・・・この単語、頻出だな、と思ってはいけない。

吉本ばななの「キッチン」にも
「食べる」ことによって悩みが軽くなるシーンがある。

こういった若者特有のパワーが描かれた作品は、とっても心地よい。
かつて若者だった我々は、いつの時からか、
悩む度に「食べ方」も「笑い方」も思い出せなくなってしまった。
見習うべきでしょうね。羨んでる場合じゃないですよ。
人生、勢いです。

ま、空の青さが鼻についたら、この詩を思い出すとよいでしょう。





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